ルメートル「その女アレックス」
☆☆☆☆
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
今や日本中のどの書店に行っても平積みされているフランスのミステリ。面白かった。最近ミステリはほとんど読まないし,史上初の六冠達成と言われても大して食指は動かないけれど,著者の別の作品がゴンクール賞(フランスで最も権威のある文学賞)を取ったということで急に興味が出たのでkindleで読破。我ながら俗な動機だと思う。
本書は500ページ近いけれど,ほぼ一晩(5時間ほど)で一気読み。登場人物もそこまで多くないし文章も平易なので,気分転換に読むにはちょうどいい。
ただ,各方面のミステリーランキングでどれも1位というのはちょっと過大評価ではないかな,というのが本音。とてもプロットもよく練られているし読み応えがあるけれど,歴史に残るほどかと言われるとクエスチョンマークがついてしまう。(比較対象として相応しいかはわからないけれど,ハラハラしながら読んだヴァン・ダイン,徹夜して読んだダン・ブラウン,単に恐怖だけで終わらせない深みのあるトマス・ハリス……などに比べると。比較するのが酷かもしれない。)
とりあえず,読もうか迷っている人は
・多少のグロ描写が平気かどうか
を自分に問うてみるとよいと思う。殺人のリアルな描写がけっこう多いので。(とは言っても村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」とか「海辺のカフカ」を読める人なら全く問題ない程度。)
こういった文章が平気で,かつストーリーが二転三転するエンタテイメント作品が好きなら是非,と自信を持ってお薦めできる。きっと満足できると思う。僕は予想外の展開の連続だったので,ページをめくる手が全然止まらなかった。一つ前の章で想像していたことが,次の章では全てひっくり返る。しかも,それが何度も繰り返されるのだ。だからここでは全くネタバレはしないけれど,事件の全貌に対するイメージがここまでめまぐるしく変わっていくのは新鮮な体験だった。
ちなみにamazonのレビューはamazon.co.jp(平均3.9)よりamazon.com(平均4.4)のほうがずいぶん良い。☆☆や☆の割合は日本のほうが3倍以上大きい。まあこれは書店で猛プッシュされている反動かもしれない。
最初は「アメリカ人のほうがキツい描写に耐性があるのかな〜」とか思ったけれど,向こうのレビューにも"if you're squeamish, this part of the story will be hard to take"とか"Read only if you have a strong stomach"とか書かれてるから,それはどの国も共通らしい。
本書は凄惨な描写を含めて割と救いのない展開が多いのだけれど,捜査にあたる刑事4人組がとてもキャラクター的にうまく作られていてそこが良かった。というか,この4人のやり取りがないとちょっと読むのがキツかったかもしれない。特にアルマンという部下は最初から最後まで笑わせてくれる。
本当は主人公(ヴェルーヴェン警部)の過去や家族のことをもっと掘り下げて書けていると小説としては良かったと思うのだけれど。でもヴェルーヴェン警部はシリーズものらしいから,きっと他の作品を読めばそのあたりも味わえるのだろうということで我慢。
あとはなんといってもラスト。素晴らしいラストと言う人も,後味が悪いラストと言う人もいるだろう。僕はどちらかというと後者だ。皆さんはどちらだろうか。重要なのは正義か,それとも真実か?
関係ないけれど,アメリカ版のほうが表紙のデザイン良いと思う。
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